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息子のインゴット

長男の要望はいつも突発的。

「今年の誕生日プレゼントは、

るつぼと耐火セメントがいい。

炉を作って金属を溶かしたいんだ」

 

るつぼとか、炉とか初めて聞きます。

 

今のところ、何をしたいのか、

まったく理解できていません。

 

遠くから眺めておきましょう。

 

ガソリンスタンドでもらったペール缶に、

プラ板や金属のパイプを差し込んで、

耐火セメントを流しています。

 


おそらく完成した炉に、

火を熾しました。

 

突き出た鉄パイプから送風すると、

炎が怒り狂ったように渦巻き、

つぼの中のアルミ缶が、

ジュワっと溶け出します。

 

今のところ、何をしたいのか、

まったく理解できていません。


「アルミ缶をたくさん使うんだよ。

父ちゃんの無駄なビールが、

はじめて役に立つね」(原文ママ)


ぼくの人生で、

今後も関わることがないであろう

「るつぼ」から、

液状のアルミが流れ出ます。


「できたー」

なんだかんだで、構想から半年。

誕生日やお年玉を全てつぎ込んだ、

アルミの塊です。

 

「これが、アルミのインゴットだよ」

 

なるほど、完成したんだね。

 

今のところ、何をしたいのか、

まったく理解できていません。

 

天才と狂気は紙一重。

凡人の僕にできることは、

黙って見守る、それくらいです。